「大会に出場して結果が出るたびに、次はもっと上を目指そうとモチベーションが上がった」と徳田さん。海外のレベルの高い選手たちと触れ合えたことが、何よりの刺激になったという。
「練習したらできるようになる」という達成感で、ますます夢中に
サッカーボールを使ったパフォーマンス「フリースタイルフットボール」を知ったのは、たまたま書店で見つけた本がきっかけでした。テレビで海外の有名サッカー選手が技を披露しているのを見たことはありましたが、それが競技として存在することはその本で初めて知りました。本に付いていたDVDの映像もヤバいくらいかっこ良くて、「練習したら誰でもできるようになる」と書いてあるので、じゃあやってみようと、練習を始めました。
最初はひたすらリフティングの練習から。その後、少しずつ大きな技に挑戦するのですが、丸3日間練習して、ようやく1つの技を1回成功できるくらいのスピード。1つの技を安定して出せるようになるまでは、さらに長い時間がかかります。本がボロボロになるまで、暇があればずっと練習しました。本に載っている技が一通りできるようになったら、動画サイトで海外の選手のパフォーマンスを何度も見て、マネしていきました。当時、練習は自宅の和室を勝手に使ってやっていたのですが、畳がボロボロになって大きくくぼんでしまい、ものすごく怒られました(笑)。
練習といっても、楽しいから毎日やっているだけ。「練習しなくちゃ」「努力」みたいな感じではまったくありませんでした。しかも、練習すれば必ずできるようになるので達成感があるし、できるようになった技を誰かに見せるのも楽しかったです。
初めて大会に出場したのは高校3年生の時です。予選で5位に入り、進むことができた「Japan Final」で、なんといきなり優勝できたんです。そして、2010年に開かれる「World Final」に日本代表として出られることにもなりました。一番焦ったのは僕自身です。何が起こったのか理解できませんでした。
地元にいたころは、フリースタイルフットボールをやっている仲間が近くにおらず、一人で黙々と練習していたので、周りのレベルがまったくわかりませんでした。だから、その時の自分ができることを全部、例えば必殺技とかも用意して挑んだら、どうやらそれが斬新だったらしいのです。周りを気にしなかったことが勝因だったのでしょう。また、海外の選手の動画ばかり見て練習していたので、自然と高いレベルのパフォーマンス力が身についていたんだと思います。「World Final」では結果は残せませんでしたが、憧れだった海外の有名選手たちと一緒に戦い、世界のレベルを肌で感じることができたのは、大きなモチベーションになりました。
優勝したことで、学校や地元からも協力してもらえるようになり、体育館を借りて練習できるようになりました。おかげで、好きな時に、好きなだけ練習できるようになったのです。大会前までは自分のやりたい技を練習するだけでしたが、「これができないと次は勝てないな」と、今までにやったことがない技にも挑戦するようになりました。そうやって自分を高めていかないと、世界では通用しないと思っていました。
2012年に「Red Bull Street Style World Final 2012」で優勝できた時は、参加する前から少し手応えはあったのです。周りの選手と自分を比較して、一戦一戦集中してミスさえしなければいいところまでは進めるんじゃないかと。
僕の強みは、外国の選手ほどすごい技ができるわけではないけれど、いろいろなことを幅広くできるところ。だから、大会でも相手のスタイルに合わせて、例えば相手ができない技を組み込んだプログラムに変えたり、オリジナルの技で印象を強くしたりと、工夫して戦いました。
世界一になった後は、正直、モチベーションが下がった時期もありました。普段から大会に出る前は大きな技を完成させていましたが、優勝したイタリア大会の時は、今までの技の総決算みたいな気持ちで、力のすべてを出して勝つことができたので、逆に「次に何をしたらいいのか」がわからなくなってしまったんです。しかも、忙しくなって練習する時間もとれなくなり、何かとイライラしてしまうことが増えました。
ただ、世界チャンピオンになると、周囲は「打倒Tokura」という目で僕を見ます。僕の技が研究され、マネもされます。僕自身も新しい技を身につけないと、すぐに抜かれてしまいます。ディフェンディングチャンピオンとして参加した2013年の世界大会で4位だったことで、いっそう「次は勝ってやる!」とモチベーションが上がり、今は猛練習を続けています。
「プロを目指したい」と思える競技にするために、できることをしたい
今、日本でフリースタイルフットボールの世界チャンピオンを経験したのは僕一人だけです。だから、僕がいろいろなところでショーをやったり、生でこの競技を見てもらえる機会をつくることは、フリースタイルフットボールの将来のためにも必要なことなのではないかと思っています。自分の時間が減り練習時間がなくなってしまうのは、仕方がありません。まだまだマイナー競技だからこそ、少しでもプラスになるんだったらと、どんなところにでも出かけて行き、パフォーマンスするようにしています。これは、僕だからできることなのかなと思っています。
実際に学校やイベント、テレビ番組などでパフォーマンスをさせてもらっていると、「Tokuraさんがやっているのを見て、僕も練習を始めたんです」といってくれる人に出会うことも増えてきました。そういうことがあると、本当にうれしいですよね。競技の認知度が上がり、競技人口が増えている実感があります。そして、そこに貢献できているんだと感じます。
大学卒業後は就職はせず、プロのフリースタイルのパフォーマーとしてやっていくつもりです。学校の授業に出なくてよくなる分、練習時間を増やすことができます。また、小学生向けのスクールを作る予定でいるので、楽しみながらいろいろな準備をしているところです。
僕が常に意識しているのは、「プロ」をもっと確立させること。僕自身が大会に出て結果を残したり、もっとたくさんの企業にサポートしてもらえるようにしたり、自分で大会をオーガナイズしたりして、もっと多くの人にフリースタイルフットボールの面白さを伝えていきたい。そして、「プロを目指したい」と思ってもらえるような競技にしていくために頑張っていきたいと思っています。
プロを目指すような人が増えれば、競技全体のレベルも上がるはずです。ほかの競技のようにもっとスポンサーがついて、競技に取り組む環境もよくなるはず。僕だからできる方法で競技の未来について考え、そのために今できることを探して、どんどんチャレンジしていきたいと思います。
徳田さんに10の質問
Q1.好きな異性のタイプは?
僕自身があまりしゃべらないので、にぎやかな人がいいです。あとは、時間があれば練習ばかりしているので、そこに理解のある人(笑)。
Q2.趣味は?
釣りです。地元(愛媛)にいたころは、海、川、池など何でも近くにあったので、しょっちゅう行っていました。
Q3.好きな映画は?
新しいことをやるモチベーションやインスピレーションは、映画からもらうことが多いので、たくさんの映画を見ています。「ブルース・リーの動きはかっこいいな」とか研究するのは楽しいですね。好きなジャンルはサスペンス。刺激の強い作品が好きです。
Q4.好きな食べ物は?
お肉も好きですが、一番はエビかな。「SMAP×SMAP」に出演させてもらった時も、エビが好きと答えたくらいですから(笑)。
Q5.携帯に登録されている人数は?
500件は超えています。自分でいろいろな人と連絡をとってイベントに出演させてもらったりするので、登録数は多い方だと思います。
Q6.尊敬している人は?
BMXという自転車を使った競技の世界チャンピオン・うっちー(内野洋平)さん。練習する姿を人に見せないところや、人生と競技の両方を全力で楽しんでいるところを見ると、僕もそうありたいと思います。
Q7.行ってみたい国は?
これまで14カ国くらいは行ったのですが、アメリカだけは一度もないので、行ってみたいですね。
Q8.好きなマンガは?
格闘技マンガ『グラップラー刃牙』のシリーズ(週刊少年チャンピオン)はどれも好き。マンガに出てくる体の使い方とかを、仲間と一緒にまねして遊ぶのが結構楽しいんです(笑)。
Q9.好きな場所は?
南アフリカのケープタウンから見える海や、ブラジルのリオデジャネイロにあるコルコバードの丘のキリスト像など、景色のきれいなところ。もっと世界中のいろいろなところに行ってみたいです。
Q10.座右の銘は?
「継続は力なり」。とにかく練習すれば、どんな技でも必ずできるようになるからです。
一日のスケジュール
取材・文/志村江 撮影/刑部友康