全日本選手権で4年連続、準優勝。身長159㎝、体重49kgと決して恵まれた体格ではないが、10cm以上身長の高い選手にもひけをとらない技でカバー。「天才肌ではないので、練習するしかない」と努力を続け、トップ選手の仲間入りを果たした。
始めて半年ですぐに結果が出たことで、さらに上を目指したいと練習に励む
父はスポーツが好きでテレビはいつもスポーツ番組が流れていました。母はプロレスが大好き。一緒に試合を見に行ったこともあります。小さいころからスポーツが身近にある環境で育ち、体を動かすのが大好きでした。今でも覚えているのですが、幼稚園の時に友達の男の子が空手の道着を着ているのがかっこよくて、道着を着てみたいと思ったのが格闘技の世界へと足を踏み入れるきっかけでした。最初は空手から。実際にやり始めて痛さもつらさもわかり、道場に入るのが怖いと思ったこともあります。それでも一度やり始めたことを途中で投げ出すのは嫌で、道場に通い続けました。小学5年の時、自分の通っている小学校の体育館で、たまたま現在の師範に出会ったのがきっかけで、テコンドーの道へ。同じ格闘技でも、空手とはまったく違う競技で、何も考えず「やってみたい!」と空手とテコンドーの両輪で進みました。
テコンドーという競技は、簡単に言えばアットラチャギ(回し蹴り)やネリョチャギ(かかと落とし)、ティットラチャギ(後ろ回し蹴り)など蹴りを中心とした武道。空手とはまったく違うものです。テコンドーの世界に入って半年後、道場主催のオープン試合に出場し優勝したのですが、その時は空手の技が混じった状態。それでも、勝ったことで楽しくなり、夢中になりました。
小学6年の夏に、テコンドー全日本ジュニア選手権に出場。小学生は学年ごとに男女に分かれて戦うのですが、黒帯ばかりの中で白帯は私だけ。勝てる訳がないと開き直って挑戦したら準優勝。ラッキーな結果だと思いますが、これを機にもっと上を目指したいと熱が入りました。中学生以上になると、ジュニア強化指定選手や世界大会に出場する選手もいて、格段に高い技術が必要になります。それでも素早い蹴りを武器に接戦を制し、中学1年で全日本ジュニア3位。その後、2年連続で優勝しました。
中学生にもなるとファッションや恋愛を楽しむ人もいましたが、私にとってテコンドーを超えるほど夢中になれるものはありませんでした。はじめは「テコンドーってなに?」と言われることもありましたが、次第に周りの友人たちも理解し、応援してくれるように。空手も並行して続けていたのですが、練習時間の確保が難しくなり、どちらかに絞らなければならなくなってしまったのです。当時、空手は流派によってルールが違いオリンピック競技になっていなかったのに比べ、テコンドーは世界中でルールが統一されオリンピック種目にもなっていました。オリンピックを目指せるのであれば目指したい、世界にチャレンジしたいと高校1年で空手をやめ、そこからテコンドー1本に集中しました。
テコンドーに魅せられて、世界を見据えて突き進む
高校からはジュニア代表だけでなく、シニア対象の全日本選手権にも出場。世界レベルの選手を相手に戦うことになり、勝つことが難しくなってきました。私は決して技術面ですぐれているわけではなく、女子49kg級という階級の中でも一番小さく体格面で不利ですが、それを言い訳にはできません。とにかく素早く動くことでカバーするしかないので、練習をするしかないのです。道場の練習は週3日、週末は自主練習。スピードやパワーでは勝てない男性相手にその蹴りをよける練習が中心。気づかないうちに体のあちこちにあざができていることもあり、それを心配した母から「痛くないの?」と聞かれることもありました。もちろん、痛いのですが、自分の蹴りが当たった時は何より面白いし、目指す目標があるからこそ続けられるんだと思います。
そして、高校1年で西日本地区大会に優勝し、全日本テコンドー選手権大会に出場。順当に勝ち上がり、決勝での対戦相手はロンドンオリンピックで7位に入賞した笠原江梨香さん。当時、笠原さんは4学年上の大学生でした。身長164㎝の長い脚からくりだされる蹴りに圧倒されながらもあと一歩及ばず、準優勝でした。翌年も、その翌年も準優勝と、優勝まであと一歩及びませんでした。
現在の大学に進学しようと思ったのも、テコンドーがきっかけでした。学校の先生に勧められ現在の大学のオープンキャンパスに行き、リハビリテーションの専門職を育てる現在の学部を知りました。中学の強化合宿でリハビリトレーナーを見てかっこいいと思ったこと、身体のメンテナンスのために通院していた時に理学療法士の方にお世話になったこと。それを思い出し、理学療法士について調べ、スポーツ選手だけでなく病気による機能低下、子どもから高齢者まで幅広い分野で必要だと知り、この仕事を目指そうと決めました。
ただ、大学に進学すると練習時間の確保が厳しくなりました。自宅から大学まで通学に1時間半かかり、必修科目も多く授業が優先に。さらに、大学にテコンドー部はありません。練習時間の少なさを補うには、練習の質で補うしかないんです。私は負けず嫌いですから、技術や体格で劣っても気持ちでは負けません。ライバルに劣っている部分があればほかでカバーし、勝てるようになりたいと思うのです。
これまでスランプというものはなく、練習したくない、やめたいと思ったことは一度もありません。私にとってつらいことは、勝負に負けること。負けてもつらい、悔しいと思わなくなった時は、テコンドーをやめる時なんだと思っています。そして、好きなことを続けさせてくれる両親への感謝も忘れることはありません。道着はビシッとした方がいいとアイロンをかけてくれる母、仕事が早く終わったら道場まで送り迎えしてくれる父。稽古にかかる費用、大会出場や遠征費、道着など金銭面でも負担をかけています。どんなスポーツでもそうですが、周りの理解やサポートがなければ続けられません。支えてくれる方たちに感謝の気持ちを忘れず、私にできることで恩返ししたいです。それは、全日本選手権で優勝し、世界大会でも結果を残し、夢のオリンピックに出場することだと思っています。
大谷さんに10の質問
Q1..好きな食べ物は?
カレーライスのカレールー。スパイシーなものから家で作るカレーまで、辛さに関係なく大好きです。
Q2.好きな異性のタイプは?
私の意見を尊重してくれる人。そして、自分というものをしっかり持っている人。
Q3.好きな音楽は?
嵐、Kinki Kidsが大好き。出演するテレビ番組はすべて録画し、時間がある時にまとめて見ます。ライブツアーも行ける限り行きます。
Q4.長所は?
負けず嫌いなところ。
Q5.好きな言葉は?
勝っておごらず、負けて腐らず。
Q6.大切にしている宝物は?
高校2年生の時、ベトナムで開催されたアジアジュニア選手権に出場し、もらった銅メダル。初めての公式国際大会で、応援に来てくれた父にメダルをかけてあげました。
Q7.テコンドー以外の趣味は?
スポーツ観戦。野球やサッカーはもちろん、時間があれば何でも見ます。嵐、Kinki Kidsのコンサートや舞台なども見に行きます。
Q8.一番会いたい人は?
プロサッカー選手の三浦知良さん。練習を見たことがあるのですが、サッカーに対してストイックで、スポーツ選手としてだけでなく人としても本当にかっこいいと思います。
Q9.尊敬する人は?
フィギュアスケートの羽生結弦選手、阪神タイガースの藤波晋太郎選手。私よりも年齢が1歳上なだけなのに、お二人とも自分というものをしっかり持ち、ぶれることなく前に進んでいるのがメディアを通して伝わるからです。
Q10.行ってみたい場所は?
インド。中学生のころからずっと行ってみたくて、インドの文化に興味があります。
一日のスケジュール

取材・文/森下裕美子 撮影/笹木 淳